第一章 異変

 

今、地球は本土の開発を達成させ、木星連合の協力の下その勢いを、同じ太陽系の惑星までへと開発を押し広げていた。

各惑星にはそれぞれ基地が建設され、資源開発が急ピッチで進められていた。

各惑星間の間には、木星連合で使われていたチューリップを軸に“ターミナルコロニー”が開発され、惑星間航行の架け橋となっている。

 

 

※/統合宇宙軍第15太陽系外周艦隊/※第十番惑星近海

こうした平和と繁栄を守るべく、地球と木星連合を和平へと導いた英雄―ナデシコA―は、統合宇宙軍第15太陽系外周艦隊旗艦として半年間の辺境の警備任務に就いていた。そして今、任務を満期し輸送部隊を護衛しながら地球へと向かっていた。

「まもなく、第十番惑星だ。アマミ准尉、地球到着は六月七日午後三時頃だ。連合宇宙軍総司令部に報告しといてくれ」

威厳深く“ナデシコA”艦長(提督兼任)−テンカワ・アキト大佐は、そう命令を出す。

「ハイ。艦長」

そう可愛らしい声で返事をしたのは、新人通信士のアマミ・サクラ准尉。

連合大学の成績は良くも悪くもなく。いわば、普通の成績といった所だった。宇宙軍では主にデスクワークをしていたが、ある時人員不足としてナデシコAのオペレーターとして配属となった。

一時的な配属令であったが、通信士としてのレベルはとても高く、アキトのスカウトもあって、そのままナデシコAに配属となったのだ。ちなみに今回が三度目の宇宙である。

「艦長。報告はそこだけでいいんですか?」

艦長席前方に座っていたミスマル・カイト中尉は、振り向きながらそう言った。

「ん、どういうことだ?カイト」

「統合宇宙軍総司令部秘書室。そこには、大事な奥さんがいるんでしょう?」

ニヤニヤしながらカイトは、艦長へその理由を話した。

「バ、バカッ!」

照れ隠しにカイトに向かって、近くにあったボールペンを投げる。

「あっ!?艦長、赤くなってる」

「・・・・・・」

サクラまでにそう言われ黙るしかなく、すでに先程の威厳も何もない。 

だが、アキトもただ言われ続けるだけではないのだ。

二人の上司として、仲間として。そして、ナデシコA艦長の威厳があるのだ。

だが、言ったことはカイトとあまり変わるわけもなく。

「二人だってそうだろ。カイトだって、ルリちゃんがいるだろう。枕元に写真を置いているぐらいしっているんだぞ」

今度は、黙るしかないカイト。

「それに・・・アマミ准尉!」

「ビクッ!?」

今度は自分に来るだろうと思い、こっそりと艦橋をから向け出そうとしていたアマミ准尉。

だが、世の中は甘くなく、あとドアまで一メートルという所で、彼女の逃走は終わった。

「君だってそうだろう。確か同じ宇宙軍に恋人がいたと思ったけど。違ったか?」

「はぅ〜。・・・・ごめんなさい」

艦橋に笑いが起こる。

すでに旧ナデシコクルーは乗っていないが、ナデシコらしい雰囲気だけは残っていた。

「それにしても・・・・・」

そう言ってアキトは、無限に拡がる宇宙を見つめる。

「地球か・・・懐かしいな」

 

 

※/統合宇宙軍本部ビル総司令官秘書室/※

「う、ウ〜〜ん」

部屋の一角にあるデスク。

そこに座っている蒼い色をした女性が、溜まっていた疲れを癒やすように背伸びをしていた。

「お疲れ様です、室長」

そう言ってもう一人の秘書官は、自分の上司にお茶を差し出した。

ちなみに秘書官は彼女と室長を合わせ、五人いる。

五人全員が女性だ。

誰もが、連合大学や士官学校を優秀な成績で卒業している。

中でも室長は、多彩まれな経験を持っていた。

「うん。ありがとう」

秘書室長−テンカワ・ユリカ准将は、お礼を言いながらお茶を受け取った。

「みんなも一段落したら休憩してね」

「はぁ〜い」

軍としてはならない返事だが、誰も咎める者はいない。

女性ばかりが集まっているのでしょうがないが、やはりその原因は上司にあろうと推測される。

「さぁて、もう少し頑張りますか」

お茶で一服し、他のみんなが休憩している中そうそうに仕事を始めようとデスクに向かう。

「もう再会されるんですか?」

少し、驚いたように声を掛けたのは先程お茶を持ってきてくれた秘書官だった。

「えっ?うん、そうだけど?」

それが?と言いながらユリカは顔を上げる。

「あまり、休憩をされてないと思いまして」

「このぐらいは、へっちゃらだよ。それにもうすぐ終わるしね」

「ですが、あまり性根詰めますとお体を悪くしますよ」

「大丈夫、大丈夫。こう見えてもユリカは身体が丈夫なんだから」

椅子に座りながら、エッヘンと胸を張る。

だが、顔に疲れが出ているのは、誰の目でも明らかだった。

「それにね。アキトも宇宙で頑張ってるんだよ。ユリカだけが、地球で楽してちゃいけないんだ」

そう言ってニッコリ微笑む。

いつも見ている笑顔とは違って見えた。本当に綺麗だと思った。

多分、一生忘れないだろう。

「そう言えば、室長。テンカワ・アキト大佐のおられる第15太陽系外周艦隊がもうすぐ還ってくるんですよね」

別の娘が言った。

「えぇ。六月七日午後三時頃ね」

「室長。もう知ってたんですか?」

「もっちろん!こうみえてもユリカは、アキトの奥さんなんだから。早く逢いたいなぁ・・・アキト」

 

 

※/統合宇宙軍第15太陽系外周艦隊/※冥王星近海

「もうじき地球か。久しぶりに会えるんだな」 

そう言いながらアキトは、虚空の宇宙を環境から見つめていた。

航海は順調に進んでいる。

つい先程、冥王星を通り過ぎた。もうすぐ、海王星近海に入る頃だろう。

だが事件というのは、そんな時に起きるものである。

「アキ・・・じゃない。艦長!」

切羽詰まった声でオペレーターのラピス・ラズリ・テンカワ少尉が声を上げた。

その名の通り、彼女はテンカワ・アキト大佐とユリカ准将の娘である。今年で十一歳の少女だ。

二人の実子ではなく、養子。詳しいことは省くが、実の子であるようにラピスを可愛がっていることは確かだ。

「どうした、ラピス」

「レーダーに未確認の艦影一隻を確認。本艦隊を追尾してきます」

「なに!?」

すぐさまスクリーンに艦影らしきものが映し出される。

艦の規模からして巡洋艦クラス・・・いや戦艦クラスかもしれない。

距離があり明確な確認が困難だった。

「Unknown艦。こちらの呼びかけに反応無し。真っ直ぐ本艦隊を追尾してきます」

「総員第一種戦闘配備。カイト、いざというときは任せるぞ」

「了解」

そう答えると、カイトは格納庫に向かうために艦橋を飛び出した。

「Unknown艦より小型の機動兵器の発進を確認しました。どうやら攻撃態勢に入っている模様です」

「スクリーン拡大」

どうやら艦影は戦艦らしい。それも高速戦艦だ。地球でも木連でもみたこともない艦だ。

新造艦なら艦の情報が無いこともわからないが、呼びかけに反応を示さないことはおかしい。

しかも我々を追尾までして、攻撃をしかけようとしている。

 

Unknown艦後方より発する光の筋が三つ見て取れる。

敵機動兵器は三機。しかも人型だった。

 

「艦長。総司令部へ連絡がつきません」

「緊急回線は試したのか?」

「ハイ。さっきからやっているのですが、ウンともスンとも」

「妨害電波が出ているみたい」

そう補足するように言ったのは、ラピス。

  

一方、Unknown艦より発進した機動兵器は後方に位置する護衛艦船へ向かっていた。

ある一定の距離に達すると背中からミサイルを連続で発射。

ミサイルは、真っ直ぐ進み一隻の護衛艦に命中した。

そして、旗艦ナデシコを目指しながら、手当たり次第攻撃を加えながら進んでいく。

 

『こちら最後尾護衛艦アナナス。ミサイル攻撃を受け被弾』

『輸送艦ラケナリア。ミサイルによる攻撃を受けました』

被害状況が刻一刻とナデシコに入ってくる。

幸いなことに沈んだ船はいない。

 

「ラピス。Unknownの捕捉はまだか」

「まだ駄目。妨害電波のせいで困難」

「クソッ」

アキトは、舌打ちする。

見ているだけでなにもできない自分が悔しいのだ。

そんな時、艦に衝撃が走る。

「うおっ」

「きゃあ」

艦内に起こる悲鳴。

床に叩きつけられたアキトは、頭を振りながら何とか起きあがる。

「みんな、大丈夫か?」

「だいじょうぶです」

「・・・なんとか」

「すまんが、すぐに艦内の被害状況を確認してくれ」

「わかりました!」

 

『アキトさん。僕が出ます!』

アキトが、各艦に命令を飛ばしていると目の前にウィンドウが開く。

エステに待機しているカイトだった。

「頼めるか」

『もちろんです』

「すまんな。俺も出撃できたら良かったのに・・・』

『いえ。アキトさんは艦長であると同時に提督です。艦隊の運命を背負っているんですから』

そう言って通信は切れる。

「さて、ここが正念場だ!」

次回 「第二章 作戦」

愛は いつも そこに・・・・


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統合宇宙軍: 正式名所は「太陽系平和維持統合宇宙軍」。数年前に宇宙軍と統合平和維持軍が合併をして誕生。実際は、宇宙軍が統合軍を完全吸収した。
総司令は、ミスマル・コウイチロウ元帥。