結婚式、青い空の下で微笑むあの人。

そして、誓いの口づけを交わす2人―――

胸が押しつぶされそうだったけど、しっかり目に焼き付けた。

これが、私がこの先、あの人のそばに居るために必要な痛みだから。

この痛みに堪えてさえいられれば、私はこれからもあの人のそばに居られる。

そばに居るだけで、あんなにも安らぐ、そう、あの人は私の居場所。

たとえ心を切り裂く痛みを伴っても、手放したくない、精一杯の譲歩。




そして、あの人達を乗せて、シャトルが飛び立つ。

あの人が見えなくなったら、多分涙が出てしまうかもしれない、

それでもいい、あの人が居ない時に泣いて、あの人の前では笑顔でいられれば、

私はあの人のそばに居られるのだから―――。







――――青い空に、赤い、朱い、華が咲いた――――






炎上し、墜落して行くシャトルの破片――

嘘―――だってあれにはあの人が―――。




落ちた破片が、地面に落ち、再び爆発した。


―――赤く、紅く、朱い、―――


「あ・・・」


―――何かが、音を立てて崩れ落ちたようだと、思った。





     ――――そして、私の世界は、壊れた――――






















機動戦艦ナデシコ

月下の妖精



執筆 雪夜





白い、病院の天井、私の1日はいつもこの眺めから始まる。

四方、全てが白い部屋、私はあの日からこの部屋に居る。

―――あの日?・・・いつだったっけ・・・ともかくその日、私は『大切な何か』を失った。

ただ毎日、白い部屋で過ごして、こうしているいまにも『私』は、

砂時計のようにさらさらと、落ちて、消えていっている。

ともかく、いずれ『私』は尽きて、消えるのだと思う。

外は、夏から秋へと移りかけて、あの熱い日差しはもう、過ぎようとしている―――。







今日も、人がたくさん来た、この人は誰だったっけ・・・

毎日のように来てるのに、なんだかひどく懐かしいと思った。


「おはようルリルリ、今日もいい天気よ〜♪」


誰だっけ・・・そうだ、ミナトさん・・・ミナトさんだった。


「・・・こんにちわ、ミナトさん」


挨拶をすると、ミナトさんは嬉しそうに笑った。

―――何が、そんなに、楽しいのだろうか。


「ルリルリ〜♪昨日ユキナったらね、夕飯の支度をしてたら―――」


・・・ユキナ?・・・誰だったっけ・・・

わからない、それに、話を聞くのが、酷くめんどうな事に思えた。

そう思い、ルリは目を瞑った、話を聞いているのか、いないのか。

ミナトさんは、それでも、独り言のように話しかけて、ずっと話しかけてくる。




夕方ごろ、話しのネタも尽きたのか、ミナトさんは一言も喋らず、椅子に座って私を見ていた。


「あ、そーだルリルリ、何か食べたい物ある?ここって食事のリクエストできるのよ〜♪

なんたってVIPでしょ?それくらいの優遇は利かせなきゃだめよねぇ〜」


「食べたい物・・・」

「そっ♪なにかある?」


「食べたい・・・物・・・ラーメンと・・・チキンライス・・・」


「っ・・・」


食事なんて、どうでもいいと思っていたから、特にリクエストもしなかった。

いざ食べたい物と聞かれて、思い出したように、その2つが、何故か鮮明に頭に浮かんだ。


「・・・ラーメンと・・・チキンライス・・・ね、わかったわ、頼みに行ってくるわね♪」


ミナトさんは、その2つの単語を聞いた途端、一瞬だけ顔をしかめたように見えた。

でもそれは一瞬、すぐに普段の笑みを戻し、部屋を出て行った。


ミナトさんが戻ってきてから30分後、夕食が運ばれてきた。

メニューは、私の注文通り、ラーメンにチキンライス。


「・・・・・・」


目の前に置かれたチキンライス、それを一掬い、口に運ぶ。


「・・・・・・・・・違う」

「・・・ルリルリ?」


チキンライスを退け、ラーメンを一口、啜る。


「・・・これも・・・違う」

「どうしたの?ルリルリ、おいしくなかった?」


違う、何かが、違う―――これは、私の知っているラーメン、それにチキンライスと、違う。


「こんなの・・・違う、食べたく、ない・・・」

「ちょ・・・ルリルリ!?どうしたのよ、大丈夫!?」


私は、知らないうちに震えていたようで、ミナトさんは慌てて医者を呼びに出て行った。







      ―――私は、この日から食事を摂らなくなった―――







月日は流れて、秋から冬に、冬から春へ、そして夏のある日―――



今日も、ミナトさんは私の病室にやって来た。

食事を摂らなくなってから、私は徐々にやつれ、喋る事も、ほとんどなくなっていった。


「こんにちわ、ルリルリ、元気にしてる?」


それでも、毎日のように来るミナトさんにだけは、挨拶くらいはする。


「         」


こんにちわ、ミナトさん と言った筈だった、でも、喉からは何の音も出ず、口をぱくぱくさせただけ。


「ルリルリ・・・?どうかしたの?」

「         」


いくら喋ろうとしても、喉からは何も音は出ず、声は届かない。




     ――――声すらも失った―――




更に季節は流れ、夏から秋へ、冬を越えて、春へ、そして―――2度目の夏




食事を摂らず、喋ることもなくなった私は、それから更に堕ちていった。

視界は色を失い、音は遠ざかり、朝と夜の区別は無く、睡眠すらも薬に頼るようになった。




真夜中、ふと外を見た、月は雲に隠れ、その姿は見えない。

どうでもいい事かと、のろのろと布団に潜り込む、睡眠薬は、1週間ほど手を着けていない。

眠っているのも、起きているのも、もはや差などなく、どちらも虚ろで、希薄な世界が在るだけ。

願わくば、いっそこの希薄な世界が、もっと早く尽き果てて消えてしまえばいい。

布団に入り、目を閉じる、真っ白な世界が閉じて、真っ白で、なお暗い世界に浸る。

これで終わり、明日も変わらず、色も音も無い世界が待っている、待っていなくても、いいのに。



―――ガチャリと、扉の開く音が、かすかに聞こえた。



閉じられたまぶたを開く、こんな時間に誰が―――





   ――――それは闇、まるで死神が迎えに来てくれたのかと、思った―――




月明かりが、雲から漏れて病室に淡い光が差し込む、暗闇に馴れた目でも

見えなかった死神、その素顔が月明かりに曝しだされる。



「久しぶり・・・ルリちゃん・・・」



瞬間、鼓動が、心臓を激しく打ち鳴らしたのを感じた。

音が鮮明に甦る、視覚ははっきりとその闇の色を映して。

手の届かない所に行ってしまった筈のあの人、ずっと焦がれて、

想いを諦めても尚、私の世界の中心にいた、あの人の顔が、手を伸ばせば届く距離にある。



「あ・・・・・・」



     ――――熱い夏の夜、私の世界に、黒い色が、深く、深く刻まれた夜――――




ふらふらと、おぼつかない足で闇の元へ向かう、枯れ果てた筈の喉から、自然な事のように、声が漏れた。

理由なんてどうでもいい、望んだ物が、求めていた人がいま、ここに居るのだから。



     ――――それは、闇へと誘う、死神のように―――



「アキト・・・さん・・・っ」


辿り着く、自分の失った欠片に、最も望み続けて、渇望し続けた、還るべき場所。




       ――――闇の王子が、妖精の元に舞い降りた夜――――   




空っぽだった私の世界は、その夜舞い降りた、たった1つの色で占められた、





   ―――それは漆黒よりも深く、重く、昏い、闇の色―――







  ――――そして、私の世界は新たに廻り始める、歪な、闇へと堕ちる世界に捕らわれて――――



















続く・・・(かもしれません)(笑)















後書き懺悔室



始めまして、雪夜と申します♪


早速ですが・・・暗っ!?

せっかくの祭りに暗い話で申し訳ありませんでしたww

なんか書けないかなーと昔書いたのを掘り出してきて仕上げましたが・・・

駄目ですかね・・・?(笑)

実はこの作品はこれで終わりではなく、前後で完結なのですが・・・

私の気力がここで尽きてしまったのでここで終わりになるとおもいます(汗)

この先の展開は自己補完でお願いします♪ ←(なんてやつだ(滝汗))

お目汚し作品で失礼しました〜。。。>w<


戻ります。